大鶴義丹、父唐十郎の遺志を継いで舞台に立つ
東京・中野区にある劇団「新宿梁山泊」の「芝居砦・満天星」。倉庫を改築した地下2階の空間には、名作の写真やポスターが飾られ、昭和の空気が漂っている。俳優の大鶴義丹(56)は、「オバケが出ない方がおかしいような所だよね」と笑いながら、この場所を紹介した。
大鶴は、今年10本の舞台に出演予定で、そのうち8本目の「ジャガーの眼」が10月14日から23日まで、東京・赤坂サカス広場の特設紫テントで上演される。この作品は、5月に84歳で他界した父、劇作家で俳優の唐十郎さんが1985年に作・主演した名作で、大鶴は10年ぶりに同作に主演する。
「ジャガーの眼」は、唐さんが主宰していた劇団「状況劇場」に所属していた俳優で演出家の金守珍(69)が1987年にアングラ演劇を継承して結成した新宿梁山泊が上演する。大鶴は2014年以来10年ぶりに同劇団に主演として参加する。この作品は、唐さんが劇作家の寺山修司さんをオマージュした作品で、寺山さんの演劇論集「臓器交換序説」を参考に製作された。「おやじ(唐さん)は寺山さんと同じ5月4日に亡くなった。呼ばれるように。不思議な話だよね」と、大鶴は遠くを見つめながら語った。
偉大な父が他界して4カ月。「母親(女優の李麗仙、21年死去)のときもそうだったけど、さっぱり受け止めてはいるんです。親子以外にも、作品や仕事を通じて共同作業をした仲間という共通分母もあるからかな」と、大鶴は胸の内を明かした。
「ジャガーの眼」の上演は、唐さんが亡くなる前から決まっていた。「ちょっと因縁めいた作品で。父と母がやっていた状況劇場の『最後』の作品。ここから劇団は(88年の)解散に向かうし、父と母も(同年の)離婚に向かう。おやじが死んで、僕が10年ぶりにやるとはね」と、大鶴は感慨深げに語った。
自身と唐さんが、それぞれ初主演した映像を見返しており、「おやじはやっぱりうまい」と感服。「生きているときは『こんちきしょう』と思って違うことをやっていたけど、死んじゃったらライバル意識がなくなって、良い所をまねしている。歌舞伎みたいに、一つの作品に対して世代を超えて親子でやるのは不思議なもんだね」と、大鶴ははにかんだ。
2日に前作舞台「リア王」の千秋楽を迎え、休まず翌日から稽古に励む日々。今は稽古の様子を映像で見直すことが常だが、思うところがある。「若い子は全員それをやるから器用にはなるけど、極端な演技をしなくなる。料理で言うと一番いい味にしちゃう。でも料理って極端に辛い店に行列ができたりするでしょ。『もっと過剰な表現でいいんじゃないの』と伝えています」。これは若い世代に期待するがゆえの言葉だ。「20代はやる気スイッチが入るとすごく頑張る。その究極が大谷(翔平)選手」と、米大リーグ・ドジャースで19日(日本時間20日)に前人未到の「51-51」(シーズン51本塁打、51盗塁)を達成した日本人になぞらえた。
唐さんの口癖は「三度の飯を食べるように芝居をし続けたい」だった。自身も今年は立て続けに舞台に出演。「芝居が好きなんじゃなくて単に暇なの。若い頃だったら、お姉ちゃんに電話するけど、50代はやることがない」とおどけた。気づけば56歳。還暦も見えてきた。「たくさん作品をやんなきゃ駄目だと思うようになった。100点満点じゃない作品もあるけど、舞台で何百人のお客さんを前にすると、何かを持って帰ってこられるんですよ。おやじも母親もいろんな芝居の環境を僕に残してくれたので、しっかり一個一個やっていこうと思います」。両親のDNAが宿る「眼」で役者道を突き進むと、天国に誓った。
作品概要
「ジャガーの眼」
探偵の田口(大鶴義丹)は、助手のくるみから依頼され、彼女の亡き恋人の形見である「リンゴ」を捜して裏町を歩き回っていた。一方、角膜移植の手術を受けたしんいちの前に、角膜の持ち主だった男の恋人・くるみが現れる。彼女が「ジャガーの眼」と呼ぶしんいちの眼は、男の記憶を呼び覚まし、平凡な生活を翻弄していく。
大鶴義丹のプロフィール
1968(昭和43)年4月24日生まれ、56歳。東京都出身。高校生だった84年、NHK「安寿子の靴」で俳優デビュー。90年、小説「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞。95年、映画「となりのボブ・マーリィ」で監督デビュー。10月29日に東京・BLUES ALLEY JAPANで「VAVAVA 男と女、星月夜に…」、11月22~24日に同・博品館劇場で「新版・天守物語」の舞台に出演する。身長180センチ。